〜肖像権について選手会が言っていることがよくわからない! という方のための、もう少し詳しい「肖像権問題」の説明〜
- よくわからない!?
選手の肖像権の問題に関しては、新聞報道などで、「選手会が肖像権の管理を一方的に通告!」などといった記事が掲載されたこともあり、様々なところから選手会にお問い合わせをいただいております。
新聞報道などでは、あたかも「選手会が本来球団の権利である肖像権を選手側が奪う宣言をした!」かのように伝えられたり、「一方的な通知をしたのはひどい!!」などといった報道がされたりしています。そこで、選手会は、そういった報道から来る誤解を取り除く意味でも、報道では正しく伝わっていない選手会の主張とその根拠について、より詳しくお答えしなければならないと考え、「トピックス」【肖像などに関する権利についての問題について〜プロ野球ゲームがでなくなる?〜】に加えて、みなさんにもう少し選手会の主張を詳しく説明することにしたいと思います。
- 肖像権は球団のものじゃなかったの?
まず、肖像権に関するよくある質問、誤解の中に「肖像権は球団のものじゃなかったの?」というのがありますので、その点についてお答えします。
【肖像権はもともと個人の権利】
肖像権という権利は、文字通り「肖像」に関する「権利」ですから、その「肖像」を持っている個人がその「権利」も持っている、これが大原則ということになります。
「肖像権」というと、よく写真週刊誌などが有名人の私生活を写真記事にしたときに「肖像権の侵害だ」といって訴えられるケースがありますが、そこでいう「肖像権」と、ここで問題としている「肖像権」とは少し意味が違います。「肖像権」にも個人の私生活の場面で無断で写真撮影などをされないといった、いわゆるプライバシー権としての側面の他に、有名人の肖像を無断で商品などの営利的な目的に使われない権利としての側面があります。後者はパブリシティ権と呼ばれ、ここで問題となっている「肖像権」はパブリシティ権の意味です(パブリシティ権には肖像のほか、氏名、声などのその人の属性が含まれますが、ここでは便宜上「肖像権」として取り上げます)。
そして、このようなパブリシティ権も、個人に属するのが原則ということになります。
【肖像権は、球団に譲渡されているのでは?!】
そのように本来選手個人が持っているはずの肖像権。次によくある質問は、そのような肖像権は、球団側に譲渡されているんじゃないの? という質問です。答えは、「譲渡されておらず個人が持っているままです」ということになるのですが、その点もなかなか報道では伝わりにくい点ですので、詳しく説明することにします。
【球団との契約で譲渡されているんじゃないの?〜統一契約書について】
この点、よくある質問として、プロ野球選手と球団が結んでいる統一契約書によって、選手の肖像権は球団側に譲渡されているんじゃないの?という質問です。
しかし、統一契約書を読んでみると、そのようには書かれていないことが分かります。その点を、アメリカのメジャーリーグでの決まりや、日本のJリーグでの決まりと対比しながら、見ていくことにします。
【統一契約書に書かれていることは、「球団の宣伝に協力してください」ということだけ!】
この点、日本のプロ野球の統一契約書では、16条という条文が、選手の肖像権について規定しています。
しかし、この条文を読んでみれば、「球団の選手だから球団の宣伝には協力してください!」ということが規定されているにすぎないということがよく分かります。
第16条(写真と出演)
球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承諾する。 |
つまり、この条文が述べていることは、次の3つに限られています。
- (撮影について)
球団が求めた場合、選手は写真撮影、映画撮影、テレビ撮影に応じること
- (撮影された"もの"についての権利の帰属について)
この写真撮影、映画撮影、テレビ撮影に関係のある肖像権、著作権が球団に帰属すること
- (撮影されたものの利用について)
この際撮影されたものを球団が「宣伝目的のために」利用してもかまわないこと
特に注意が必要なのは、次の点です。
1.については、明確に写真撮影、映画撮影、テレビ撮影の3つに限定され列挙されています。2.については、1.をうけ「このような写真出演等」とされており、この3つに限られた権利の帰属であることが明らかです。
3.については、あくまで球団の宣伝目的に利用してもかまわないといっているに過ぎず、「球団のポスターなどに利用してもいいですよ。」と書いてあるに過ぎません。
以上のように、統一契約書の16条を見ても、「球団が選手の肖像を商品化のために自由に利用できる」ことの根拠にはならないことが分かります。つまり、この条文は、あくまで球団の宣伝のための条文であり、選手の肖像等の商品化という概念を含まない条文なのです。
【メジャーリーグでの取り扱いは?】
アメリカのメジャーリーグにも、統一契約書の中に、日本の統一契約書16条と全く同じ条文があります。それも当然です。日本の統一契約書はアメリカの統一契約書にならったものだからです。アメリカの統一契約書には、以下のような条文があります。
| Pictures and Public Appearances
3.(C) The Player agrees that his picture may be taken for still photographs, motion pictures or television at such times as the Club may designate and agrees that all rights in such pictures shall belong to the Club and may be used by the Club for publicity purposes in any manner it desires. |
ではアメリカのメジャーリーグでは、選手の肖像権を球団が管理しているかというと、そうではありません。肖像権の管理を行っているのは選手会です。過去には、野球カードに選手の肖像が使われることに関して、選手個人が野球カードの商品化をする会社と個別に契約を結んで許諾(ライセンス)を行っていたという時代がありましたが、今では、選手会が管理をしているのです。少なくとも今までのアメリカのメジャーリーグの歴史の中で、球団側が上記のような統一契約書の条文を根拠に選手の肖像の商品化に関する権利を管理したということはありませんでした。
そうだとすれば、上記のようなアメリカのメジャーリーグの条文の直訳である日本の統一契約書16条も、選手の肖像権が球団に譲渡されているということの根拠にならないのは当然といえましょう。つまり、同じ条文をもつメジャーリーグでの取り扱いが、日本においても「統一契約書によって選手の肖像権が球団に譲渡されているわけではない」ということの証明になっているといえるのです。
【Jリーグでの取り扱いは?】
一方、Jリーグの場合はというと、選手の肖像権(ただしあくまで選手の肖像等の包括的な使用に関する部分)についてはJリーグが管理しています。
なぜならJリーグの場合は、Jリーグ規約、「収益事業」の章の「商品化に関する基本原則」第136条で明確にそのことが規定されているからです。
第136条
1. Jリーグは、Jクラブ所属の選手、監督、コーチ等(以下「選手等」という)の肖像、氏名、略歴等(以下「肖像等」という)を包括的に用いる場合に限り、これを無償で使用することができるものとする。但し、特定の選手等の肖像等のみを使用する場合には、その都度、事前にJクラブと協議し、その承認を得るものとする。
2. Jリーグは、前項の権利を第三者に許諾することができる。 |
上記のように、Jリーグは、わざわざ「商品化に関する基本原則」という規定を設けて、「肖像等」を「無償で使用することができる」と規定しているのです。
他方で、Jリーグは、プロ野球の統一契約書16条と同様の役割を持つ条文を、上記の条文と別にもうけています。Jリーグ規約の「選手」の章第97条です。
第97条
1. 選手は、Jクラブから指名を受けた場合、Jクラブ、協会およびJリーグの広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下広告宣伝等)に原則として無償で協力しなければならない。 |
つまりJリーグでは、
- Jリーグは、商品化のため、選手の肖像を無償で使用できる
- Jクラブは、球団(クラブ)から指名を受けた場合は、球団等の宣伝に無償で協力しなければならない
という2つのことをそれぞれ独立の条文で規定しているのです。
これに対して、プロ野球の統一契約書は、上の(1)、(2)のうち、(2)の条文のみしか規定していないのであり、そのことからしても、プロ野球の統一契約書第16条が、商品化に選手の肖像を使用することまで規定している条文ではないことが分かります。
【今まで選手の肖像の利用については球団側が管理していたんじゃないの?】
では、プロ野球の統一契約書が、選手の肖像権が球団に属することの根拠にならないとしても、選手は今まで、肖像権の管理を球団側に任せてきたんじゃないの?という質問があるかもしれません。
たしかに、これまでは、野球ゲームなどに選手の肖像や氏名が使用された場合でも、その使用の許諾などの権利の管理は球団側が行ってきました。しかしながら、これは、統一契約書のような書面上の根拠があって管理を行ってきたのではなく、いわば、書面はないけれども事実上管理を行ってきたというにすぎません。
しかしそのような中で、「トピックス」【肖像などに関する権利についての問題について〜プロ野球ゲームがでなくなる?〜】の中にもありますように、球団側(日本野球機構)は、2000年4月から、ゲームに関する肖像等の利用を1社に独占させるとの契約を結んでしまったのです。
このことを知り、選手会は、野球ゲームでの肖像の使用を1社に独占させるという、肖像権管理方法の根本的な変更について、球団側が選手側に対して承諾を求めるどころか通知すらすることなく行ったことに少なからぬ不信感を抱きました。
また、選手会は、そのような「1社独占契約」は、これまで複数のゲーム会社が魅力あふれるゲームを市場に出すために競争を重ね、それによってプロ野球ゲームの質を向上させてきたという事実に反して、特定のゲーム会社のみにプロ野球ゲームを独占させるという、プロ野球ファンにとっても背信的な行為であると判断いたしました。このような独占契約は、プロ野球のファン離れを招くことになり、球界全体の将来に大きく影響することになります。
実際選手会が行った調査によって、あるゲーム会社が、ゲームの販売が可能な状態であったにもかかわらず、長期にわたって、ゲームの販売ができなかったという事実も明らかになりました。また中にはそのような「1社独占契約」のために、今後のプロ野球ゲームの開発そのものを断念することを検討している会社もありました。それも無理もないでしょう。自分のライバル会社である他のゲーム会社から許諾を受けなければ、世の中に自社が開発したゲームを出すことができないのですから。
また、そのような「1社独占契約」は、他のゲーム会社を排除した形で締結されました。もし仮にプロ野球界全体の経営状況の安定を図るという観点から独占契約をする必要があったとしても、それまで野球ゲームを出している各社に対して、機会均等という観点から、独占契約をするための競争入札をさせるなどの方法はあったはずです。なぜそれをすることなく、特定の1社のみとの交渉で独占契約に至ったのか、疑問が残るところです。
以上のような理由から、選手側としては、もはや球団側に選手の肖像権の管理をゆだねるべきではないとの結論に至り、2000年11月17日付で、日本野球機構に対して、2000年11月20日以降は、選手会が、選手の肖像権の管理(ただしその範囲についてはいわゆる「包括的使用」に限る―「トピックス」【肖像などに関する権利についての問題について〜プロ野球ゲームがでなくなる?〜】参照)を行うとの通知をするに至ったのです。