なぜ問題? ここが問題!
契約更改での年俸交渉は、その年の選手成績が基準となります。投手、野手それぞれに、攻撃、守備、チームプレーなどの面から、細かく設定された評価基準に記された貢献ポイントが算出され、そこから最終的な、翌年の年俸が提示されます。
いわばこの席は、選手がそのシーズンにプロのプライドと選手生命を傾けてきた努力の結果が、評価される唯一の瞬間。しかし、現状は、選手に著しく不利な環境なのです。
1対複数 〜プレッシャーのあまり、何も言えず判を押してしまう選手も
選手は、特定の日に呼び出しを受け交渉に臨みますが、選手はあくまで一人。球団側は、多くの場合複数で対応します。交渉の相手側は、いくらでも人数を増やせるのに、選手側は一人なのです。毎年、孤独な戦いを強いられるこの場を、大きなストレスに感じている選手は少なくありません。
野球のプロ 対 交渉のプロ 〜まるで、子供と大人の腕相撲
選手たちが身を置く世界は、交渉が日常茶飯事に行われるビジネス社会ではありません。 選手は、グラウンドで、よりハイレベルなプレーを見せるために、日々、自らの技術を磨くことに没頭しているのです。そんな力と力、技と技のぶつかる世界で戦う選手が、年に一度、しかも自分の評価を決定する一番大事な時に、そのビジネス社会に、たった一人、丸裸で放り出されるのです。そしてこの交渉の素人に対するのは、選手の性格を知り、交渉のテクニックにも熟練した強者。これまで何人もの選手が、グランドで結果を出したにも関わらず、契約や交渉に関する知識不足だけが理由で、納得のいかない評価のまま契約更改を終えているのです。
契約を話し合う場が、判を押させる場に 〜フェアであるべき選手と球団の関係
本来、プロ野球選手は自らの技術を売りに、球団と契約を結ぶ立場です。ですから年に一度の交渉にあたっては、納得がいくまで話し合い、内容に不安や疑問を感じたら、専門家に客観的なアドバイスを求める権利があるはずです。
しかしながら、これまでに見られた契約更改のケースでは、契約内容に関する満足な説明がされなかったり、金額について話し合おうとすると、“ごねると不利になるよ”や“おまえは本当はいらない選手だ! 雇ってもらえるだけありがたいと思え!”などと、おどしをかけられたり、またこのようなおどしによって野球協約違反である減俸額を認めさせようとするなどの事例もありました。選手は無知なのだから、とにかく判子さえ押させてしまえばこっちのものといった感覚で行われることも少なくないのです。
また、契約社会では、契約書を双方が持ち合うことは常識ですが、選手に渡すべき2通製作する契約書のうちの1通も選手に手渡されないケースがほとんどです。
<契約更改での主な問題事例>
- 若手選手などに対し「おまえは、何も言う資格がない。黙って判を押せ」と強要するケース。タテ社会での習慣が身についた選手は、上の人には逆らいづらく、しかも相手の人数は多い。
- 「この年俸に応じなければ解雇だ!」と暴言を浴びせるケース。こういった対応は、交渉以前の問題だが、こう言われても実際、選手には移籍の自由もないので従うしかない。
- 「来年、活躍したらアップしてやるからさ」「俺を信じろ、将来コーチにしてやるから」などの口約束で、その場の契約を認めさせようとするケース。後には、事情が変わったの一言で、うやむやにされるケースが多い。
- 協約や、法律的な部分など、選手が不得手な専門知識を持ち出し、選手が知識がないことがわかると、平気で選手に不利な契約を認めさせようとするケースも少なくありません。前年度年俸の25%を上回る減俸は協約違反(前年度1億円以上は30%まで)にも関わらず、50%の年俸で契約させるケース。また象徴的なケースとしては、球団は選手に対して消費税を支払わなければならない立場でありますが、交渉の場では消費税に関して一切話されていないにも関わらず、勝手に内税的な取り扱いをし、消費税の負担を実施的に選手に負わせてしまっています。
選手会は、こう要望しています
■ フェアにやりたい 〜だからこそ代理人交渉を
契約更改の場は、選手側と球団側がじっくりと話し合う場として貴重な場所です。ただし、これまで見たように、契約内容に関して、十分な主張があるにも関わらず、その方法や知識が足りないために、言いたいことも言えずに終わってしまう今のシステムは、健全とはいえません。だからこそそれが必要と思う選手には、適切な専門家に交渉を委ねる選択肢は、あっていいはずです。
球界には10代の選手すらいます。若く、知識も社会経験も不足している選手が、大人に言われるがままに判を押すのではなく、疑問を感じたときに、法律や、野球協約に詳しい専門家のアドバイスを求め、その上で納得して判を押す。そういう心構えで、契約交渉に臨むのもプロの自覚ではないでしょうか。
選手側と球団側がフェアに話し合う場、契約更改がそんな場所になることを望んでいます。
■ プレイに集中したい 〜だからこそ代理人交渉を
壊れたビデオの修理を電気屋さんに頼む。交通事故の交渉を保険屋さんに頼む。知識が足りなかったり、不得意なことを、お金を払ってでもいいから、代わりにやってくれないだろうか。これが世の中にさまざまな専門家がいる理由です。お金を払って、専門家に代行してもらっている時間、自分は、最も得意とする仕事で報酬を得る。この考えが社会の成り立ちを支えているといえます。 実際プロの選手の中には「年俸は上がらなくても、専門家に頼みたい」という声さえあります。専門家に頼むことは、精神的ストレスを大いに軽減させます。特に交渉ごとの場合、代理人というワンクッションをおくことで、感情的なしこりを伴わずに、納得のいく話し合いができる場合もあります(球団側の高圧的な態度での年俸交渉が、その後のシーズンでのプレイや、球団への愛着に大きく影響を及ぼしたという選手たちの声も聞き逃せません)。“プロの世界は数字(結果)がすべて”であるならば、その数字が、どういう評価につながるかの結論を出す場が契約更改です。その席で、選手が、最初から最後まで、精神的プレッシャーを感じながら一人で交渉役をやり続ける制度に意味はありません
(また日本では、保留選手が、ともすると悪者のように扱われる雰囲気さえあります)。 このままなら、これからのプロ野球選手は、自らを守るために、投球術やバッティング技術を磨く時間の何割かを削り、“交渉”について学ばなくてはならなくなります。
■ 共存共栄のために
我々が求めているのは、あくまで、プロの野球選手であるがゆえの宿命ともいえる契約、交渉の知識、経験不足を補ってもらうための代理人交渉を要望しています。最近の報道では、「不当な年俸吊り上げ狙い」など、球界関係者の一部で、代理人が球界全体に不利益を及ぼす存在としてアピールしようとする動きが見受けられます。たしかに球団経営の立場からいえば「いいプレイをするけど、交渉が苦手」な選手が、数多くいる方がよいでしょうから、代理人交渉の進展は、一部関係者にとって不安のものであるのでしょう。しかし、選手会は、交渉において、球団と選手が“フェアな関係でありたい”と主張しているに過ぎません。現在考えている代理人交渉で年俸が不当に高騰するとは思えませんし、そんな球界全体を圧迫する制度は、共存共栄を一義とする選手会としても本意ではありません。また代理人交渉は、選手の負担を軽減し、プレイに専念できる環境をつくる意味では、選手、球団双方にメリットのはずです(過去、契約更改やFAでの移籍の長期化が、選手のコンディションづくりに悪影響を及ぼした例も少なくありません)。
我々選手会は、代理人交渉導入が球団に躊躇されている理由が「選手側を交渉下手のままにしておく方が得だ」という動機でないことを信じています。